
今期の竜王戦七番勝負第2局のおやつで藤井聡太竜王(19)が注文した「くま最中(もなか)」が「かわいい」とSNSで評判になり、製造元の京都の和菓子店でその日のうちに売り切れた――。こんな話題が最近、インターネット上をにぎわせる。
将棋は今や、指す人だけが楽しむゲームではなくなった。自分で対局するよりも竜王戦など公式戦の観戦を趣味とする「観(み)る将」と呼ばれるファンが増え、竜王戦の大盤解説会場は女性の姿も目立つ。「おやつ」や「勝負めし」といった話題で盛り上がるのも「観る将」ならではの光景だ。通算タイトル99期のトップ棋士、羽生善治九段(51)は「将棋を社会の関心事に押し上げたのは藤井さんの功績」と明言する。
藤井竜王が2017年に歴代1位の29連勝を達成すると、「藤井フィーバー」が起こり、将棋を始める子供が増えた。コロナ禍以前は、竜王アカデミーなど、将棋イベントに藤井竜王が登場すると、「棋士の卵」たちは目を輝かせて憧れのスターを取り囲んだ。
将棋のネット中継が始まって約10年。それまでうかがい知ることができなかった対局中の棋士の様子は、新鮮な驚きとともに将棋の新しい楽しみ方をもたらした。
八大タイトル戦の一つ、叡王戦を主催する菓子メーカー不二家の店には、藤井竜王がタイトル戦で食べたケーキが中継で紹介されると、行列ができたという。同社の河村宣行社長は「藤井さんが食べたケーキは売り切れ続出で、その影響力、人気に感服しています」とにこやかに話す。
将棋中継は実際、どれくらい見られているのか。インターネット放送局ABEMA(東京都渋谷区)によると、2018年、羽生九段の通算タイトル獲得100期が懸かった竜王戦七番勝負第7局2日目の視聴数(中継ページのクリック数)は約167万件。今年の竜王戦本戦・藤井竜王―山崎隆之八段戦は約374万件で、アクセス数は毎年、右肩上がりで増えている。
2年ほど前にABEMAの将棋中継で人工知能(AI)による勝率表示が始まり、対局の形勢が可視化されたことも大きい。ABEMAの中継担当者は「将棋はアナログな盤上ゲームだが、ネット中継や勝率の数値化というデジタル要素を加えたことによって、スポーツ観戦のように見ることが可能になり、ファンが増えた」と手応えを語る。
タイトル64期を誇る昭和の大棋士・中原誠十六世名人(74)は「盤上で人間の無限の可能性を示してくれる藤井さんの将棋を見られる時代に生きていることは、とても幸せなことです」とファンの気持ちを代弁している。(この連載は文化部・吉田祐也が担当しました)
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