コロナ禍で食品廃棄が問題
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、食品ロスが増えています。
大きな要因のひとつとして挙げられるのは、外食産業の縮小です。飲食店が時短営業や休業をしたり、消費者が会食や宴会を自粛したりしています。
その結果、飲食店が食材や食品があまり仕入れられなくなり、卸売業者や生産者で余ったモノが廃棄されているのです。
SDGsでも食品ロス削減が課題
世界共通の目標として構成された「SDGs(エスディージーズ)」=「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」でも、食品ロス(フードロス)は大きな課題となっています。
持続可能な食を推進していくために、廃棄される予定の食材を用いたり、サステナブルな食材を使用したりと、外食産業でも飲食店の食材に対する意識の変革が見かけられるようになりました。
ただ、実際のところ、一部の非常に熱心な飲食店だけが頑張っているというのが正直な感想です。
食のトレンド
食の業界では、トレンドはトップの料理人が生み出し、業界全体へと伝播していきます。ヌーベル・キュイジーヌに代表されるようなバターやクリームを極力用いない軽やかな料理、食材を意のままに操る分子調理、地産地消が発端となった唯一無二のローカルガストロノミー、ヘルシーな観点からも重宝される和食材は、時代を先取りするレストランでいち早く取り入れられ、他のレストランへと波及していきました。
トップシェフは独創的なアイデアと高い技術力を有しています。常に他の料理人からも注目されているだけに、大きな影響力をもっているのです。
食品ロス削減運動でもこの流れは同じで、いかにトップシェフが活動に寄与していくかが大きな鍵。
そこで今、注目したいレストランがあります。
それは、イタリアの高級ファッションブランドのアルマーニ(Armani)が運営する「アルマーニ / リストランテ(Armani/Ristorante)」。
なぜならば、イタリア料理の実力派シェフが、フードロス食材(食品ロスとなった食材)を主役としたコースメニューをこの春スタートしたのです。
星付きの才能溢れるシェフ
エグゼクティブシェフを務めるのはイタリア・ナポリ出身のカルミネ・アマランテ(CARMINE AMARANTE)氏。世界中の「アルマーニ / リストランテ」の中で最も若いエグゼクティブシェフです。
イタリアやスペインの星付きレストランで研鑽を積むなど、名だたるレストランで活躍してきました。2018年には若干28歳で東京「ハインツ・ベック(HEINZ BECK)」のエグゼクティブシェフに就任し、ミシュランガイドに一つ星として掲載。
2020年8月から「アルマーニ / リストランテ」で腕をふるうことになり、最も動向が注目されている料理人なのです。
このカルミネ氏が紡ぎ出した、食品ロスを削減するためのコースが「LOSS FOOD MENU」(10,000円、税込・サ別)。全てのメニューで、フードロス食材(食品ロスとなった食材)が用いられているのが大きな特徴です。
それでは、各メニューを詳しく紹介していきましょう。
アミューズ
アミューズで用いられているフードロス食材は、減農薬や無農薬によって、形が不揃いとなったり、見た目が悪くなったりした高級柑橘類の「湘南ゴールド」。
この神奈川県産「湘南ゴールド」と旬のウルイを合わせた可愛らしいタルトがアミューズです。「湘南ゴールド」の瑞々しさによって、ウルイのほのかな苦味が引き立てられています。美しい赤色をしているのは、生地にビーツが練り込まれているからです。
トマトのヴァリエーション
フードロス食材は、飲食店の時短営業や休業で出荷できなかった滋賀県産トマト。様々な種類とサイズ、形のトマトを丁寧に湯むきしているので、そのやさしいテクスチャと甘味を楽しめます。
真ん中には心地よい酸味のトマトのソルベ。滋味のあるトマトのコンフィとジュレを合わせたスープは食べる直前にかけてもらえます。
湯むきしたトマトの皮は乾燥させられ、パウダーとして利用されるなど、食材を余すところなく使おうというカルミネ氏の強い意志が感じられます。
ホワイトアスパラ サフランのベアルネーズソース
新潟県産ホワイトアスパラガスの上には、プチプチとした食感の海ぶどう。大分県産サフランを用いたベアルネーズソースのクリーミー感はホワイトアスパラガスの甘味とよく合います。下にはブラックオリーブと竹炭のパウダーで土の風合いを表現し、ナスタチウムの彩りも添えて。
フードロス食材はアスパラガス。穂先の開き方や伸び方、色味や長さなどが規定外と判断されたものですが、食味は通常品と全く遜色ありません。
スパゲット 海の香り
フードロス食材は鹿児島県産カンパチ。飲食店の時短営業や休業、飛行機の減便によって出荷できなくなりました。
アルデンテのスパゲッティには、ダイス状にし、スモークしたカンパチのタルタルがのせられています。脂のあるカンパチをルッコラのソースが穏やかに包み込みます。ほのかに潮の香りがするプランクトンのパウダーが隠し味。
魚の茹で汁でパスタを湯がいているので、水も無駄にされず、パスタも素晴らしい潮の香りをまとっています。
真鯛 グリンピース ハーブのソース
海水で戻してジューシーにしたマダイのソテーです。皮目がパリッと焼かれていて、ふっくらとした身とよいコントラスト。ペコロスやグリンピース、ピーテンドリルといった野菜もふんだんに添えられています。
フードロス食材は愛媛県産のマダイ。カンパチと同様に、飲食店の時短営業や休業、飛行機の減便によって出荷できなくなったものです。
シトラス
神奈川県産ミカンを用いたプレデザート。果肉、ジュースのゼリー、コンポートしたピールなど様々な部位が使われていて、色々な味わいと香りを楽しめます。白い綿の部分を乾燥させ、チップやスパイスにするなど、使い残したところはほぼありません。
フードロス食材食材はミカン。無農薬栽培のため皮に一部変色が見られるものなど、外見が理由となって流通できかったものを使用。
カカオ クリーム ゼリー グラニータのヴァリエーション
メインのデザートは、マダガスカル産のカカオがふんだんに使われた一品。フードロス食材は、チョコレートをつくる過程で廃棄されたカカオの部位です。
カカオのクリーム、カカオハスク(カカオの皮)を煮詰めたリボン型ジュレ、カカオの白い綿の部分を利用したグラニテ、発酵させたカカオのシロップなど、普段は食べられない部分も味わえます。グラニテはカカオと水だけで作られているので、シンプルにカカオの風味を感じられることでしょう。
コースが考案された背景
食味もプレゼンテーションも素晴らしいメニューばかりですが、どれもが食品ロス削減に大きく寄与しています。
なぜこのようなコースが考案されたのでしょうか。
カルミネ氏は「創設者のジョルジオ・アルマーニは、オフィスの二酸化炭素を削減したり、衣服に再生素材を利用したりするなど、環境問題に対して非常に意識が高い。私も以前から食品ロス削減に関心があったので、フードロス問題に取り組んでいるフードロスバンクと我々のチームが一緒に企画を練り、その後本国にフードロス食材を中心としたコースを提案したところ快諾された」ときっかけを話します。
フードロスバンクとは、コロナ禍によりさらに増加しつづけるフードロス問題を改善すべく、2020年に日本ガストロノミー学会協力のもと設立された団体です。
打診したのが2020年10月で、年内には「LOSS FOOD MENU」を提供することが決定しました。そこから各メニューを考え、2月末にはコースの内容が固まったといいます。
苦労したのはどこでしょうか。
「廃棄される食材であれば何でもよいというわけではない。その中でもクオリティの高いものを選び出し、ファインダイニングに相応しい一皿につくり上げる必要がある。客席数も多いので、確実にある程度の数を仕入れられる食材という制限もあった」
日本の食材に精通したカルミネ氏なので、春であればタラの芽を使いたかったようです。しかし、食品ロスとなるタラの芽はごく少量なので利用できませんでした。
思い入れの深い料理はあるのでしょうか。
「日本のトマトは非常においしいが、形が少しでもいびつであると、食味がよいにもかかわらず、廃棄される。トマトはイタリア料理のベースとなる大切な食材なので、訪日した時に大きなショックを受けた。そこで日本のトマトの素晴らしさを改めて伝えるためにも『トマトのヴァリエーション』を考案したので、是非とも味わっていただきたい」
世界の「アルマーニ/リストランテ」の中でも「LOSS FOOD MENU」は日本だけの特別コース。ゲストから好評を博しているので、今後世界へと展開される可能性もあるということです。
カルミネ氏の情熱によってつくり出された「LOSS FOOD MENU」はとても心に響きますが、改めて述べておきたいポイントがあります。
全てのメニューでフードロス食材を主役に
最初は、全てのメニューでフードロス食材を主役にしていること。食品ロス削減をコンセプトにしている料理やコースは多く見かけられますが、全ての料理でフードロス食材が主役となっているものなど、ほぼありません。
なぜならば、手間暇がかかったり、供給が安定しなかったりするからです。その時その時でフードロス食材の入荷量は安定しないので、ファインダイニングで大々的に利用することは難しいでしょう。
しかし、それでもあえて、食品ロス食材を主役に据えていることに、カルミネ氏の信念やアルマーニという企業の意識の高さが窺えます。
そして、ただフードロス食材を使うだけではなく、「アルマーニ / リストランテ」らしい、軽やかで美しいガストロノミーに紡ぎ上げていることも感服するべき点です。
レギュラーメニューとして提供
次に注目するべきは、「LOSS FOOD MENU」がレギュラーメニューであること。フードロス食材を用いたコースは、苦労を要するだけに、一定期間にだけ行われることが多いです。
しかし、「アルマーニ / リストランテ」ではランチにもディナーにも同じコースが同じ価格で提供されています。常に体験できるようにしているのは、本当に食べてもらいたいという意識の現れでしょう。
通常コースと同じように3ヶ月毎に新しくなるので、ゲストにとっては楽しみが増えるに違いありません。
リーフレットも作成して配布
最後は、リーフレットを作成していること。食品ロスの概要に始まり、どのようなフードロス食材が使われているか、そしてなぜ食品ロスになったのかが、詳しく説明されています。
わざわざ印刷物を作成するのはコストがかかりますが、ここまで行うことによって、食品ロスに関心をもってもらえることは確かでしょう。
フードロス食材を用いた珠玉の料理を生み出すだけではなく、しっかりと啓蒙活動まで行っているのは、ひとつのレストランの枠を超えた試みとして、称賛されてしかるべきことです。
もったいない文化
素晴らしい日本の食文化として「もったいない」がよく挙げられますが、豊かになった現代の日本では、「もったいない精神」はだんだんと失われている美徳ではないでしょうか。
コロナ禍で飲食店は苦境に立たされており、残念なニュースばかりが聞かれます。しかしそういった状況にあって、「アルマーニ / リストランテ」が「LOSS FOOD MENU」を開始したことは、数少ない素晴らしい希望であるように思うのです。
からの記事と詳細 ( 実力派シェフが廃棄に驚いたフードロス食材とは? 食品ロスを救える画期的なコース(東龍) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース )
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