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Tuesday, November 3, 2020

めざすは“井戸端”。ベーグルの輪が仕事を、地元食材をつなぐ/暮らしづくりベーグル&コーヒー - 朝日新聞社

だだっ広い駐車場に100均やホームセンター……日本のどこでも見られるショッピングモールの光景。そのなかでただ1カ所、異彩を放っていた「暮らしづくりベーグル&コーヒー」(福島県郡山市)。その扉は、日常からちょっとした非日常へトリップする「どこでもドア」に見えた。

「塩昆布&大葉」、これはジャパニーズベーグルの夜明けではないか。塩昆布とチーズ、ダブルの塩気と旨味(うまみ)。それは、コクとなって生地へと波及し、北海道産小麦「ゆめちから」のミルキーな風味を掻(か)き立てる。前歯でぱつっ、奥歯でむにゅんむにゅん。ゆめちからならではの弾力を楽しむうち、とろーっと溶けてくる快楽。

めざすは“井戸端”。ベーグルの輪が仕事を、地元食材をつなぐ/暮らしづくりベーグル&コーヒー

塩昆布&大葉(右)、梨と陳皮のコンフィチュール&アールグレイ&チーズ

「梨と陳皮のコンフィチュール&アールグレイ&チーズ」は京都で養生茶を作る「HAHAHAUS」とコラボ、和素材をベーグルへ昇華させている。漢方に使われる陳皮とはオレンジの皮のこと。普通のオレンジピールと異なり、煮出したシロップも生地に混ぜて使用する。コンポートされた梨からちょちょぎれる豊かな果汁に、陳皮の香りが寄り添う。苦味や酸味もなく、あくまでさわやかに。生地に練り込んだアールグレイの甘い香りとも、柑橘(かんきつ)の香りは抜群の相性がある。

このベーグル店は、「暮らしづくりビレッジ」の一角にあり、女性のためのハローワーク「おしごと百貨店」と同居している。ターンテーブルでソウルミュージックをかけながらコーヒーをハンドドリップするのは店長の田中豪さん。子育て中の母親を支援する団体「一般社団法人Stand for mothers」の代表理事にはとうてい見えない。

「東京にいた頃、ご近所のつながりが希薄になっていると感じました。昔はお母さんの井戸端会議が、母親や女性のセーフティーネットとして機能していましたが、いまはそれがなくなってしまった」

目指したのは、ベーグル店とハローワークを備えた現代の井戸端。田中さんが女性の仕事について問題意識を持ったのは母親の一言だった。

めざすは“井戸端”。ベーグルの輪が仕事を、地元食材をつなぐ/暮らしづくりベーグル&コーヒー

暮らしづくりビレッジ内にある民間型ハローワーク「おしごと百貨店」

「自分の母親も共働きでした。『仕事が忙しくてあんたらに向き合えなくてごめん』って半泣きになりながら言われたことがある。一生懸命生きてきて、良心の呵責(かしゃく)を覚えないといけないなんて。そんな社会おかしいでしょって思いました」

はじめはカフェ形態だったが、経営は軌道に乗らなかった。そんなとき思いついたのが、元々好きで食べ歩いていたベーグル。地元のパン屋に頼み込んで研修を受けて基本を学び、小麦粉や吸水を調整し、いまのベーグルを完成させた。

「ハードなNYベーグルではなく、もうちょっと食べやすい、もちもちのベーグル。もちもち食感だと腹持ちもよくなる。他の強力粉も試しましたが、いまのところゆめちからに落ち着いています」

食感もラインナップも、オリジナリティーにあふれる。異業種からベーグルの世界に足を踏み入れたことが、功を奏したのだろう。

めざすは“井戸端”。ベーグルの輪が仕事を、地元食材をつなぐ/暮らしづくりベーグル&コーヒー

ルバーブ&クリームチーズ(右)、チョコ&バナナクリーム

近隣地域の農産物を使用することもコンセプトのひとつ。「ルバーブ&クリームチーズ」には、福島県西郷村にある島田農園のルバーブをシロップ漬けにして生地に巻きこむ。私もこの農園を訪ねたことがある。ルバーブの色は土壌に左右され、日本のルバーブは緑色であることがほとんど。だが、島田農園ではピンクのルバーブができる。すーっと走り抜ける爽快な酸味はもちろん、イチゴによく似た甘い香りの中に憩うのがとても楽しい。

「ベーグルサンド THE LOX(ロックス)」は、サーモンとクリームチーズをはさんだ王道のサンド。地元郡山・鈴木農場のタマネギ「甘70」をはさむ。辛味やえぐみはまるでなく、甘さとさわやかさをサーモンに付け加え、極上の相性を作りだす。

めざすは“井戸端”。ベーグルの輪が仕事を、地元食材をつなぐ/暮らしづくりベーグル&コーヒー

ベーグルサンド THE LOX(右)、自家製塩キャラメル クリームチーズ&バナナ

「どこの誰が作ったかわかる、地元の食材を使いたい。安心安全の定義って、『どうやって作ってるんですか?』って直接聞けることだと思うんです」

仕事をつなぎ、農産物をつなぐ。ベーグルという輪っかが人と人をつなぎあわせ、暮らしやすく、活気のある地域作りに役立っている。ハローワークとベーグルショップが同居するのは、ただの思いつきではなく必然なのだ。
 

暮らしづくりベーグル&コーヒー
福島県郡山市日和田町字西中島14-1(オリエントパーク日和田内)
024-955-6180
10:00-16:00
火曜休

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    PROFILE

    池田浩明

    佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
    日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
    http://panlabo.jugem.jp/

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