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Friday, April 29, 2022

吉野家、ミスターチーズケーキ、牛宮城、食品表示で炎上が絶えない根本原因 - ITmedia ビジネスオンライン

 22年3月、食品表示に関する2つの問題が起き、世間を騒がせた。

 元お笑いコンビ・雨上がり決死隊の宮迫博之さんがオープンした高級焼き肉店「牛宮城」で、メニュー表記をめぐってトラブルが発生。大きく報道された。

 Webページでは「30カ月以上肥育された雌牛のみを使用」としながら、実際には去勢した雄牛を提供していたことが問題となった。

 また、高級チーズケーキを販売するMr. CHEESECAKE(ミスターチーズケーキ)でも、Twitterでの炎上騒ぎがあった。商品の賞味期限について製造日より約6カ月とWebページ上に表記していたが、購入者のもとに届いた商品は製造日から4カ月経過したもので、実質の賞味期限が2カ月しかなかったためにトラブルとなった。

 牛宮城は宮迫さんが「管理を徹底できていなかった」として謝罪。「雌牛のみ」「30カ月以上肥育」という表現を取りやめるとした。ミスターチーズケーキも「誤解を招く表現となった」として謝罪した上で、賞味期限の表記を「発送日を起点として1カ月以上」と改める対応を取るに至った。

 表示をめぐるトラブルについて、筆者は「元バイトAKBのラーメン店、産地偽装は返金で許されるのか?」(21年11月17日付本連載)で取り上げた。

 表示をめぐる問題はたびたび発生しているが、一度発覚すると企業のブランドを大きく損なう。では企業はどうすればいいのか? 消費者トラブルを専門とする司法書士の立場から、この問題を考えてみたい。

元お笑いコンビ・雨上がり決死隊の宮迫博之さんによる「牛宮城」の謝罪はYou Tubeで行われた(出典:You tube、宮迫ですッ!【宮迫博之】

牛宮城やミスターチーズケーキは法律に違反しているか?

 商品などの内容に関する表示を規制をする法律の一つに景品表示法がある。なかでも「優良誤認の禁止」は、商品やサービスについて実際よりも著しく良いものであるかのような表示を禁止している。

 この法律を所管しているのは消費者庁だ。消費者庁は事業者に対し、表示に嘘がないことを示す根拠の提示を求めることができる。事業者側が根拠を出せなければ、不当な表示をやめさせる命令を発し、課徴金などのペナルティを課す仕組みだ。

 課徴金は不当な表示から得た売り上げの3%が徴収される仕組みで、事業者にとっては大きなダメージになる。過去に課徴金を課された例に日本マクドナルドがある。CMで「ローストビーフバーガー」と宣伝していた商品が、実際は牛の成型肉を使用していたとして2000万円を超える課徴金を受けた。

 この課徴金は16年にスタートした新しい制度。高級ホテルで車エビと表記しながら実際はブラックタイガーといった、当時多くの有名ホテルで発生した不当表示によるトラブルがきっかけで創設された。

 牛宮城やミスターチーズケーキが、事実と異なる表示を故意に行ったかは不明だが、意図にかかわらず、事実と異なる表示だったことから景品表示法に違反する可能性がある。

牛宮城やミスターチーズケーキにペナルティは課されるか?

 では牛宮城やミスターチーズケーキに対して、何らかのペナルティが課されるかというと不透明だ。

 消費者庁がWebページで公開している資料「令和2年度における景品表示法の運用状況及び表示などの適正化への取組」によると、表示に関する問題として消費者庁が新規に取り扱う案件は年間300件程度だという。

 そのうち措置命令が出されるのは例年50件程度と、日本全体の企業や事業者の数から考えて多いとはいえない。措置命令よりは軽い“指導”などの対応をしている件数は年間で200件ほどあるとされるが、表示に関する問題をすべて捕捉できているかといわれると、十分ではない。

 ミスターチーズケーキでは、希望する顧客に対して代替商品を追加で発送するとしている。しかし偽装表示を行った事業者の中には、対応を取らない事業者も少なくない。

 そういった店舗に対しては、顧客が損害賠償請求することも考えられるが、ハードルはかなり高い。健康被害などが発生すれば話は別だが、ほとんどの場合は代金が少額で、裁判をするにはあまりにコストがかかり過ぎるからだ。少額の被害では泣き寝入りになってしまうケースが多い。

 では、事業者側が法的な問題をうまくやり過ごせば、問題は解決するかというと、決してそうではない。表示に関する問題は、企業の営業姿勢や誠実さが問われる部分であり、対応を誤るとブランドやイメージを大きく損なうからだ。

消費者と事業者の間にある認識のズレ

 なぜ表示にまつわる問題はなくならないのか? 1つには、表示が宣伝やセールストークの中で行われることにある。

 悪名は無名に勝るという言葉があるが、商品やサービスを知ってもらわなければビジネスは始まらない。知ってもらうためには誇張があることは織り込み済みで、度が過ぎなければある程度容認されるという誤解が企業側にはあるのかもしれない。

 あるいは多少の表記ミスがあっても、食中毒のような健康被害と比べたら大きな問題ではないという誤認もあるのかもしれない。前回の記事で取り上げたラーメン店は近所のスーパーで表示と異なる海老を堂々と仕入れるなど、隠す素振りすら見られなかった。

 しかし科学的に優劣がつかない場合でも、事実と異なる表示を行った結果、消費者が著しく優良と認識してしまう表示は不当表示となる。

 過去に、ビタミンCについて景品表示法で不当表示とされたケースがある。

 合成されたビタミンCを使用しているにもかかわらず、事実と異なり、アセロラ果実から得られた天然由来ビタミンCを使用していると表示されていた。この場合、天然由来と合成されたもので栄養学的に差異がなかったとしても不当表示とされた。

 牛宮城のトラブルでは、宮迫さんが謝罪動画をYouTube上にアップしている。その中で、仕入れ担当者が品質の良いものを仕入れようとした結果、メニューの表示とは異なる牛が含まれていたが、肉質には問題がなかったと弁明している。しかし肉質が問題なければ許されるというものではない。問題は表記と提供された商品が異なっていた点だ。

 雌牛か去勢された雄牛か、30カ月以上肥育されたかといった、味で区別のしにくいキャッチコピーを信じる消費者側に問題があるのではないか、という一部からの指摘も筆者は目にした。

 しかし、ひとくくりに消費者といってもさまざまな属性があり、焼き肉店は一部の限られた食通だけを相手にしているビジネスではない。表示は購入を判断する客観的な材料となるもので、そこに一切の嘘は許されない。

 消費者は表示内容に嘘がないと信じて購入する。多少のウソがあっても問題ないと考える消費者は極めて少ないだろう。また情報に誤りがあった場合、消費者と事業者の認識には大きなズレがある。

 繰り返すが、ポイントは「消費者がどのように理解するか」で、事業者の意図とは無関係だ。

「消費者はどう理解するか」という視点の欠如

 ミスターチーズケーキの件も、消費者と事業者の認識に大きなズレが見られる。

 賞味期限は製造日から冷凍保存6カ月とWebページ上で説明していながら、顧客の元には製造から4カ月経過したケーキが届いている。当初ミスターチーズケーキ側は、賞味期限は冷凍保存で製造後6カ月という内容に偽りはなく、また製造から何日経ったものを送るかまでは表記していなかったため、問題ないと考えたようだ。

 しかし「消費者はどう理解するか」という視点で見るとどうか。

 賞味期限は冷凍保存で製造後6カ月という表記を見た消費者は通常、賞味期限までほぼ6カ月の商品が届くと認識するだろう。筆者が見る限り、このケースは消費者が勘違いした、勝手に誤読したとはいえない内容だ。

 説明文に偽りがなかったとしても、情報の受け手である消費者に正確に伝わっていない時点で表示としては不十分であり、事業者側の意図とは関係なく不当表示になり得る。こうした視点が欠けているといえる。

吉野家が不正確な表示で炎上した理由

 このような例は、吉野家の「魁!!吉野家塾」オリジナル名入り丼のキャンペーンでも見られた。これは、吉野家が行った人気漫画『魁!!男塾』とのコラボ企画で、対象期間中に貯めた来店ポイントに応じて特典がもらえるというものだ。その特典の1つが名前入りのオリジナル丼だった。

 丼に入れる名前について、当初は特段条件がなかったが、期限終了間近になって突如、本名に限定するという条件を付けたことが問題となった。吉野家としては、名前に条件がないと著作権法などの法律に抵触する可能性がある点に配慮して、急きょ条件を設けたようだ。しかし、顧客からのクレーム対応に問題があったこともあり、SNSなどで炎上した。

 この件は、吉野家の商品である牛丼に直接関わる表記ではないが、多数の顧客がキャンペーンの特典を目当てに商品を購入しており、商品の表記と同様の正確性が求められる。

 吉野家としては、法に抵触する事態を避けることに力点を置いたのかもしれない。ただ、自社のキャンペーンの表示“制限無く名入れのできる丼をプレゼントする”に対し、消費者がどのように認識するかの配慮が欠けていたことが根本にある。

 ミスターチーズケーキと吉野家はクレームを受けたあとの対応でも問題を指摘されてトラブルが拡大、ブランドイメージを大きく損なうこととなってしまった。

不当表示をなくすには?

 不当表示の問題は古くからある問題で、これといった決め手に欠くのが現状だろう。

 ただ、今回取り上げた牛宮城、ミスターチーズケーキ、吉野家に関しては、消費者の目線に立った表示のあり方をいま一度再検討する必要がある。場合によっては外部の目を入れることも必要だ。

 SNSでの炎上が日常的に起きている現在、本来であれば「トラブルを生まない広告」をチェックする仕組みが内部にあるべきだ。それがうまく機能しない場合は外部からのチェックを受けるなどの方法を検討しても良いのではないか。

 吉野家では、最近も常務取締役が早稲田大学主催の社会人向け講座で「生娘がシャブ(薬物)漬けになるような戦略」などと不適切な発言をしたとして謝罪を行っている。

 表記のミスとは異なる問題だが、この発言も顧客がどう受け止めるかという視点が明らかに欠如している。ブランドイメージが取り返しのつかないほど損なわれる前に、再発防止に真剣に取り組むべきだろう。

 そして、不当表示では大半のケースでペナルティが課されていない点にも問題がある。

 景品表示法は16年に法改正され、課徴金の制度を導入するなど、制度の改善が図られている。消費者庁は14年にも、メニュー表示に関して事業者が順守すべきガイドラインを作成、公表するなどしている。

 ガイドラインでは、事業者が商品の企画・調達・生産・提供などそれぞれの場面で行うべきチェックポイントを設けており、適切に順守できていれば、牛宮城のようなトラブルは未然に防げると思われる。にもかかわらず、表示が問題となる事例はあとを絶たない。

 今回指摘した点以外にもさまざまな原因が考えられるが、そもそもの問題として違反した際にペナルティが課される可能性が低いことも原因の1つではないのか。有名な企業やたまたまSNSで炎上した企業だけが「社会的な制裁」を受けるような形は不公平なだけではなく、当然抑止にもつながらず、結果として消費者保護の実現もできないことになる。

 表示問題の解決はまだ道半ばだ。実効性のある制度の改善に向け、今後も議論が必要である。

筆者:及川修平 司法書士

福岡市内に事務所を構える司法書士。住宅に関するトラブル相談を中心に、これまで専門家の支援を受けにくかった少額の事件に取り組む。そのほか地域で暮らす高齢者の支援も積極的に行っている。

企画協力:シェアーズカフェ・オンライン


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