
【石川】焼いたチーズの香ばしい香りが漂う店内――金沢市大野町4丁目にあるチーズケーキ専門店が、SNSで静かなブームになっている。店を運営するのは、1911年創業の老舗企業「ヤマト醬油味噌(しょうゆみそ)」だ。しょうゆ・みそのメーカーがなぜチーズケーキなのか。
ブリュレを注文すると、店員が目の前でガスバーナーをケーキの表面にあてて焼き上げる。表面はパリパリ、中はしっとり。後味は軽く、しつこさがないと評判だという。
店はコロナ禍の昨年3月にオープンした「こめトはな」。同社の敷地内にある直営店だ。この不思議な組み合わせ。そのカギは「発酵」にあるという。
「みそ、しょうゆメーカーは、いわば『発酵のプロ』。そのノウハウをチーズケーキという形にしました」。こう語るのは、同社営業部長の山本耕平さん(37)だ。同社社長の長男で、「こめトはな」の運営をマネジャーとして進めてきた。構想から5年をかけてオープン。SNSの口コミで徐々に人気に火がつき始め、現在は1日に200個以上が売れることもあるという。
最大の特徴は、材料に「糀(こうじ)」を使っていることだ。糀は、食べ物の消化や吸収を助ける「酵素」を出すカビの一種。酵素がたんぱく質や脂質を分解する際、うまみや甘み、香りが出ることを生かし、日本では古くから発酵食品づくりで利用されてきた。
同店でチーズケーキを作る際に混ぜる糀は、みその製造と同じものを使う。みそは大豆を発酵させる際に用いるが、チーズも大豆と同じようにたんぱく質や脂質が多く含まれており、相性が良いという。出来上がったチーズケーキは、濃厚な香りやうまみを出しつつ、後味をさっぱりとさせることができるという。
出店を決めたのは、新型コロナがきっかけだった。料理店向けの販売が事業の一角となっている同社は、コロナの影響をもろに受け、売り上げが大きく落ち込んだ。コロナの「第2波」が迫った2020年夏、山本さんは少しでも経営状況を打開しようと、付き合いのあった飲食店と弁当販売のイベントをした。
その際、感じたのは、ただ商品を製造し、販売するだけではコロナ禍のような非常事態には対応できないことだった。山本さんは「自分たちのノウハウを生かして作ったものを提供し、ファンを作っていく必要性を強く感じた」と振り返る。
構想のあったチーズケーキ店を一気に加速させ、半年ほどで開店にこぎつけた。
しょうゆ・みそ製造の老舗企業がチーズケーキ店という話題性もあり、県内外から客が買い求めに来た。SNSでは「さっぱり優しい甘さで美味(おい)しかった!」「チーズのコクと濃厚さが広がります! 口溶けもなめらかで美味しい」などと味も好評で、地元の固定客も増え、軌道に乗り始めている。
山本さんは次の展開も見据える。今年4月にはパティシエを採用。今後も、糀や発酵食品を活用したスイーツの開発に取り組みたいという。「『発酵食品ってこんなにおいしいんだ』と、より身近に感じてもらえるようになれば」(山田健悟)
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〈こめトはな〉 金沢市大野町4丁目イ170の「ヤマト糀パーク」内。営業時間は午前10時から午後4時半。水曜、年末年始は定休。ミニサイズのチーズケーキは、税込み430円から。ヤマト醬油味噌の公式オンラインストアでも購入できる。問い合わせは同店(076・268・5289)。
からの記事と詳細 ( 老舗しょうゆメーカーの「チーズケーキ」 静かな話題に:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル )
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