街や住まいとあらゆる場で利用され、暮らしに欠かせない「木」。最近は、「食材」への活用も始まっているという。背景にあるのは国内林業の持続可能性の模索など、社会課題の解決に、という思いだ。(深津響)
一見、普通のパウンドケーキ。しかし袋を開けた瞬間、ナッツの甘い香りとともに、涼やかな杉の香りが鼻をくすぐった。
「Eatree Cake(イートリーケーキ)~木から生まれたケーキ~」は、材料の20%が杉を粉にした木粉だ。ほか、アーモンドパウダー、砂糖、卵などが使われている。
ひと切れ口に運ぶと、まず上部のザクザクとした食感。次に、しっとりとした生地が口の中でほろほろと崩れた。かむとレモンの風味が鼻に抜け、次第に木の香りも広がった。
住宅情報サイトなどを手掛ける「LIFULL(ライフル)」(東京)が平成31年3月に販売を始めた。
同社が取り組む、食を通じた課題解決型プロジェクト「Earth Cuisine(アースキュイジーヌ)」の第1弾で、ほかに竹やカカオの未利用部分などを新たに食材とし、スイーツなどに仕立ててきた。
なぜ住宅情報を扱うライフルが、このような取り組みを行うのか。それは、木材の供給源でもある日本の森林を守る一助になりたいとの考えからだ。
植林事業による人工林は、定期的な間伐など、手入れをしないと荒れてしまう。
最近は輸入木材の価格高騰(ウッドショック)が話題だが、木材自給率は約4割(令和2年)と国内の流通は輸入材が中心。加えて、林業の深刻な後継者不足も重なり、国内の森林は間伐が行き届かないまま、荒れてしまうことが問題となっている。
そこで同社はさまざまな人の関心事となる「食」を通じ、林業が抱える問題を社会に広めようと、木粉を使った商品を開発した。
同社広報担当の野尻翔子さん(38)は「発売当初はSDGs(持続可能な開発目標)も浸透していなかったが、今ではどんどん一般の人にも広がっている」と手応えを話す。「『おいしいから食べよう』となり、それが社会課題の解決につながれば」と期待する。
腸にもよい
そもそも、イートリーケーキの原料となる木粉は静岡県で生まれた。平成27年、木を「食べる」という新しい利用法で林業や地域の活性化につなげようと、地域の事業者や大学教授などによるプロジェクトを発足。平成28年、静岡県川根本町で茶の生産などを行う「樽脇園」が、浜松市で育った天竜杉を加工する際に出るおがくずを、あく抜き、乾燥、粉砕し、食べやすくし、「スーパーウッドパウダー」という名で、販売を開始した。
当初は年間10袋程度しか売れなかったが、現在では年間約1千袋まで拡大。
同園社長の樽脇靖明さん(53)は「とりあえず広まるまで10年はかかるとみていた。一過性ではなく徐々に広げていき、定着させたい」と語る。
一粒直径0・1ミリ程度の細かさまで砕かれており、そのまま食べると、杉の風味が鼻に抜けていく。栄養はほとんどなく、9割以上が食物繊維。整腸効果が見込まれるという。みそ汁やハンバーグ、塩と混ぜてふりかけにしてもよいという。
「いろいろ使ってもらえれば、林業の後継者問題や山の保全につながる。さまざまな商品を開発していき、木を食べることが当たり前になれば」と樽脇さんは展望を描いている。
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