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Monday, July 31, 2023

「日本式フルーツケーキ」がシンガポールで大人気…シャトレーゼが着実に海外店舗を増やせているワケ - ライブドア ... - livedoor

菓子大手のシャトレーゼの海外事業が好調だ。中でもシンガポールは進出から8年で42店舗に拡大し、同国で最大手の菓子チェーンになった。人気の秘密はどこにあるのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんがリポートする――。

■シンガポールを足がかりに171店舗を展開

洋菓子、和菓子を主力商品とする小売りチェーン、シャトレーゼはコロナ禍の後でも成長を続けている。同社の従業員数は2200人。国内店舗は770店で、売り上げは1175億円(単体、2023年3月)。国内売り上げは前年比で17%も伸びている。さらに、同社は世界にも進出している。海外での売り上げも急速に伸びている。

初めて進出した国はシンガポールだった。2015年のことで、その後、現在までアジアと中東の9カ国・地域に171店舗を展開している。売上高に占める海外店舗の比率は約5%。海外店舗は増やしていく方針だから、今後はさらに伸びていくだろう。

同社が出している海外店舗の各国別内訳は次の通りだ。

香港74店舗、中国4店舗、台湾1店舗
シンガポール42店舗、インドネシア23店舗、マレーシア17店舗、タイ5店舗、ベトナム2店舗
ドバイ3店舗 ※2023年8月現在

シャトレーゼの海外進出が本格的に始まったのはシンガポールからだった。創業者で現会長、齊藤寛が少子高齢化の日本マーケットに危機感を覚え、熟慮の末、新しいマーケットを求めて海外へ出ていくことを決めたのである。

■進出から8年でシンガポールNo.1に

進出を検討していた頃、シンガポールにある伊勢丹から「出店しないか」という話が来た。

ただし、売り場はたった5坪だった。それでも日本と同じケーキやシュークリームなど約40種類の商品を並べてみたところ、客が殺到し、たちまち売りきれたのである。それから8年間、シンガポールでは着実に店舗を増やし、現在は42店舗となっている。

東京都と同じくらいの面積に約560万人が暮らすシンガポールで42店もあるケーキショップはない。進出から8年間で、シャトレーゼは同国一の菓子チェーンになった。

わたしが見に行ったのは42店舗のうち、もっとも売り上げが多いヒリオンモールというショッピングモール内の店舗だ。同店の年間売り上げは日本円で約2億円。これは東京や神奈川にあるシャトレーゼ店と同じくらいの売り上げ金額だ。

筆者撮影
シンガポールの「ヒリオンモール」にあるシャトレーゼ - 筆者撮影

ヒリオンモールはシンガポールの中心部からMRT(地下鉄)で30分ほどのブキパンジャン駅に直結している。店舗があるのは地下1階で、隣にあるのは「リャオリャオ」という地元のヨーグルトショップ。その隣はスターバックスだ。

ヒリオンモールは地元の人たちが日々の買い物に訪れるモールで、日本でいえば郊外のイオンモールのようなもの。観光客がやってくるところではないし、世界的ブランドショップがテナントになっているところでもない。

■「日本産フルーツケーキ」に長い行列が

金曜日の夕方、ヒリオンモールのシャトレーゼは家に持ち帰るケーキを買う人々で、長い行列ができていた。

筆者撮影
7月14日(金)の夕方、レジには長い行列ができていた - 筆者撮影

「夕方になると、いつもこんな具合です」

シンガポールに駐在し、同国で事業を担当するシャトレーゼの松岡正将さん(筆者撮影)

そう教えてくれたのは松岡正将(まさゆき)さん。シンガポールの担当で、進出の直後から同社で働いている。シンガポール在住だから、同国の事情にも詳しい。

「うちの店舗ではどこでも季節の果物を使ったケーキがいちばん人気です。いちご、白桃、さくらんぼ、ぶどう、柿といったもので、材料の果物はいずれも日本から空輸している新鮮な国産品です。ケーキそのものは山梨の工場で作ったものを冷凍して、船便で運んできます。

店舗では解凍したケーキの上に従業員がカットした果物を載せて販売しています。アジア、中東へ運んでいるケーキはいずれも同じように冷凍したケーキと空輸した果物ですが、これは冷凍技術とコールドチェーンのおかげといえます」

シャトレーゼがシンガポールで売っているケーキの値段は日本で買うのとそれほど変わらない。果物を空輸してもそれくらいの値段でやっていけるのは、同社が山梨県内の契約農家から年間を通して相当な量を買い付けているからだ。

他社が同じようなビジネスをやろうとして日本から冷凍のケーキを運ぶことはできる。しかし、新鮮な果物を空輸できる会社はほぼないだろう。契約農家との長年の絆がなければ成り立たないのである。

■ケーキ屋というより果物店のよう

また、ヒリオンモール店には日本の店舗と同じように和菓子、アイスクリーム、せんべい、自家製ワインなども並んでいる。和菓子、アイスクリームも人気があるが、多少の違いもある。例えば、日本ではアイスといえば「チョコバッキー」が売れる。しかし、シンガポールでは「しぼりたて牛乳モナカ」が人気商品で、チョコバッキーよりも売れる。チョコよりも乳製品のほうが好まれるのだろうか。

筆者撮影

シンガポールは小さな国で農産物はすべて輸入に頼っている。他の国であれば自国の農産物を保護するために輸入を制限したり、多額の関税をかけたりする。しかし、シンガポールで自給しているのは卵くらいのもので、それ以外はすべて輸入している。そのため、農産物に対しては関税がかからない。他のアジアの国よりもさまざまな種類の農産物を使った商品を並べることができる。

わたしはシャトレーゼ以外の欧米資本やローカルのケーキショップも見に行った。何といっても違うのは店頭の彩りだ。シャトレーゼのケーキには季節の果物、通年販売の果物が載っているものが多い。いちごの赤、白桃の白、ピンクなどが店頭を鮮やかに彩っている。果物店のような外観だ。

■なぜシンガポールの人々に人気なのか

一方、欧米やローカルのケーキショップで売っているのはチョコレートケーキ、バタークリームのケーキ、パイ、クッキーといったものだ。全体に白と茶色の色合いである。新鮮な果物を使うケーキは少なく、果物を使うとしても、コンフィチュールやジャムにしてある。

日本のようにシャインマスカットや白桃をどっさり載せたケーキはまず見かけない。ケーキはケーキ、果物は果物で食べるという感覚なのだろうか。

シャトレーゼのように空輸便を使ってまで、新鮮な果物をケーキの材料にしようという発想がないのだろう。

筆者撮影

考えてみれば、日本と海外では果物の持つ意味合いがやや違う。例えば、海外へ行くと、果物は青果店に野菜と一緒に並んでいる。また日本の果物のように甘さを追求した商品とはいえない。酸っぱいものであったり、水っぽいものであったり、バナナのように主食にもなりうるのが海外の果物だ。

例えば気温が高いアジアや中東、南米などでは果物は水分を取るためのものだ。甘くなくてもかまわないといえる。

一方、日本の果物は「水菓子」である。甘みと水分を含んだデザートの役割を持っている。だから、ケーキの上に載せて食べてやろうという発想が生まれる。

筆者撮影

■ケーキだけでなく「日本の四季」を売っている

また、日本には四季に合わせて果物が栽培されている。果物は季節を表す農産物だ。いちご、さくらんぼ、スイカ、桃、梨、柿、りんご、みかん……。果物が載ったケーキを買って食べることは日本の四季を味わうことにも通じる。

シャトレーゼは日本の特徴を生かして海外に進出している。日本が持つ四季と季節の果物という強みを活用している。これまでにも日本の洋菓子、和菓子店が海外に店舗を出してはきたが、シャトレーゼは次元の違う高等戦略で海外進出している。

「シンガポールではショッピングモールに店舗を出店してきましたが、ほぼほぼ出し尽くしたところです。次に狙うのはもう少し小さな規模の店を住宅街のなかへ出すこと。会長の齊藤は『シンガポールやアジアの子どもたちには気軽にアイスクリームを食べてもらいたい』と言っています。わたしたちは日本のシャトレーゼがやっているような気軽な値段でおいしいお菓子をたくさん楽しんでもらいたいと思っています」(松岡さん)

筆者撮影

シャトレーゼは洋菓子、和菓子だけを売っているのではない。日本の四季、季節の果物という風土と文化を売っている。短い期間にシンガポール、アジアに根付いたのは商品だけを大量に売りまくったのではなく、日本だけが持つ自然の恵みと文化を合わせて紹介しているからだ。日本文化の紹介者ともいえる。

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。
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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)

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